baby blue

music / film / miscellaneous

ある子供



2005年のカンヌで2度目のパルムドール受賞となったダルデンヌ兄弟の作品。彼らの作品は全て見ていてどれも甲乙つけ難いほど好きなのだけれど、やっぱり今回も素晴らしいなあ、と改めて思った。
定職にもつかず日々を暮らしているブリュノと、恋人ソニアの間に子供が生まれる。しかし、金欲しさに子供を売ってしまうブリュノ。
登場人物の息遣いが聞こえてきそうな手持ちカメラによるカメラワーク、そして人間の温かみが確かに感じられる空気。劇的に物事が描かれるわけではなく、これまでの作品と同じように客観的な視点で、まるでドキュメンタリーを見ているような感覚。*1ベルギーと言う異国の地なのに、どうしてこうもリアルに感じられるのだろう。子供を産んだことでソニアが子供ながらも「母親」になったのに対し、ブリュノは子供のまま。所々、それを強調するような場面が出てくる。子供を売ったり、引ったくりをしたり、どうしようもないのだけれど、どこか憎めないのはやはり彼が「子供」であるからだと思う。「無邪気」なんだ、本当に邪気が無い。ただ、何を考えてるかもよくわからない。観客がもしいらいらした気持ちを感じるとしたら、多分そこだと思う。
けれど最後のシーン、ずっと見えなかったブリュノの「想い」が初めて見えた気がした。何もかも投げやりで、その場凌ぎで、どうでもよかった人生で、ようやく大切なものを見つけて、しっかり握り締めたような。真っ暗な闇の中に差し込んだ一片の光を見つけたような。ずっと画面に張り詰めていた緊張感にも似た空気がぷっつり途切れ、溢れ出したブリュノの感情が、何だか自分にも届いたような気がした。気付いたら自分も静かに涙を流していた。
にしても、やっぱり彼らの作品は見ている間、何だかずっと息を詰めて見てしまう。エンドロールを含め、音楽がないのも彼らの作品の特徴だけれど*2、それがより作品のリアリティを高めていると思うし、空気がダイレクトに感じられるのもそのせいだと思う。あ、そう言えばイゴールを演じたジェレミー・レニエがブリュノを演じていましたが、何だかものすごくイゴールとブリュノが被って見えたのは私だけでしょうか。
★★★★★ 5

*1:ちなみにダルデンヌ兄弟は元々ドキュメンタリーを撮っていたらしい。

*2:音楽らしい音楽と言えば、「イゴールの約束」でイゴールと父が歌うシーンとかその辺しかなかった