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ケン・ローチ

ケン・ローチマイク・リーマイケル・ウィンターボトムと並んで個人的にイギリス映画の中でかなり好きな監督さんです。この方の映画ってダルデンヌ兄弟と似たような感触があるように思います。所謂社会の底辺層の人々を描きながら、ハッピーエンドではないけれど決して救いがない訳ではないところとか、何故かものすごくリアルに響いてくるところとか、見終わった後にずっしり残るところとか。
結構多作な監督さんなんですが、非常に残念なことに殆どDVD化されてません。今入手できるのがオムニバスも合わせて4本ってどういうことなの全く。しかもレンタルもほとんどないし。私もDVD化されてるもの以外は「ケス」レディバードレディバード」「マイ・ネーム・イズ・ジョー」「リフ・ラフ」「レイニング・ストーンズ」しか見たことがないです。そのうちBOXとかでどどーんと出してくれないかなーと思ってるんですけどね。


SWEET SIXTEEN [DVD]

SWEET SIXTEEN [DVD]

これはサイドバーで今取り上げてる作品です。ちなみに軽くネタバレしてますのですみません。
舞台はスコットランド。15歳のリアムの母親は刑務所にいる。母親の出所を間近に控え、母と姉と3人で新たな暮らしを始めようと、お金の為に麻薬の売人になるリアム。
この映画の中で主人公のリアムがただ一つ求めているのは「家族との平穏な生活」だけ。見ていて、それが痛々しいほど伝わってきます。何も特別な事を求めている訳でも、高望みをしている訳でもないのに、そのたった一つの願いが叶わない。その為に麻薬を売り、友達も見捨て、やっと手に入れた家からも母親は出て行く。とても切ないです。悲しいです。やり切れないです。彼の想いが純粋で真っ直ぐ過ぎて、それがひりひりした痛みと緊張感となって画面からずっと伝わってきます。リアムが時々見せる15歳らしい笑顔に、胸を締め付けられました。
最後に海を見つめるリアムは、何を考えていたのか。16歳の誕生日に、自分を心から愛してくれている人がすぐ傍にいる事に気付いたのか。気付いていて欲しいと願わずにはいられません。そして、彼がこれから歩む人生に思いを馳せずにはいられないのです。
余談ですが、この映画予告もいいと思いました。予告だけで泣きかけ。劇中でリアムが母親の為にかけるPretendersの「I'll Stand by You」が予告でも使われてるんですけど、そこでだだーっと涙腺が緩みます。映画を見た後は特に。
★★★★☆ 4.5 


でもってこれは去年映画館で見逃した作品。最新作と言う事で、ものすごく楽しみにしてレンタル開始日に早速借りました。
スコットランドグラスゴーイスラム教徒のカシムと、彼の妹タハラの学校の音楽教師ロシーン。二人はお互いをとても強く思っているけれど、カシムには親に決められた婚約者がいる。そしてカシムの家族は厳格なイスラム教徒であり、カシムの異教徒との結婚は家族の崩壊を意味する。また、ロシーン自身も自らがカソリックであることで様々な問題を抱えている。
ラブストーリーでもあるけれど、そこはやはりケン・ローチ。宗教の持つ強い意味合いや、イギリスでの人種差別などの問題をしっかり見せ付けてくれます。一応仏教徒ではあるけれど、ほとんどの人が無宗教だと言っていい日本では考えにくい、宗教と言う枠。そんな枠に囚われるなんて馬鹿馬鹿しいと見始めた時は正直思っていました。でも、見終わった後はとてもそんな事は言えなくなった。宗教を裏切ることは即ち家族を壊し、捨てること。
見ているこちら側としては、家族とロシーンの間で悩むカシムの気持ちも理解できるし、そんなカシムに苛立つロシーンの気持ちも理解できる。ただ、自分の好きな人と一緒にいたい。その想いが多くの人を巻き込み傷付ける。そんなどうしようもなさが、やっぱりケン・ローチだなあと思った。身近では中々起こりにくい事柄なのに、こうもリアリティを持ってぐぐっと入り込まれてしまうのは何故なんだろう。
それまでずっといらいらしながら見た分、ラストの二人のやり取りにはすごくほっとした。けれど、これはハッピーエンドと果たして言えるのかどうか。この先二人に待ち受けているものを考えると手放しで良かったとはとても言えないのだけれど、この後味がやっぱり好きなのですこの監督さん。
★★★★☆ 4