baby blue

music / film / miscellaneous

プルートで朝食を(ちょっとだけネタバレかも)


伏見ミリオン座にて。1970年代のアイルランド。生まれてすぐ母親に捨てられたキトゥン。彼には小さい頃から女装趣味があった。やがて成長したキトゥンは、母親を探しにロンドンへ。
キリアン・マーフィ演じるキトゥンがとにかく魅力的です。「居場所が欲しい」「愛が欲しい」。ただそれだけ。キトゥンは人を疑う事を知らず、ひたすら健気でひたすら真っ直ぐ。自分の想いに有り得ないほど正直に生きている事にすごく心を打たれた。IRAのテロが頻繁に起こる状況で、seriousを嫌い、母親を求めてひたすら彷徨う。何があっても笑顔のキトゥン。笑顔の裏にに胸が張り裂けそうな程の悲しみと孤独を隠している彼女が痛々しくもあり、と同時に愛おしくもあり。テロでぼろぼろになっても、カメラマンに「綺麗に見える側から撮って」と笑顔で微笑む。もうこのシーンが痛くて痛くて、痛過ぎて。胸が詰まった。
そしてポップミュージックと、カラフルな洋服。夜の街やミラーボール。まるで御伽噺を見ているような気持ちになった。キトゥンは夢想家なのだけれど、辛い現実からの逃避の手段として色々な夢を見るようになったんだろうな。拘置所の、夢の中でローレンスと踊るシーンがすごく切なかった。もう号泣。大切な人を救えなかった後悔と、彼を失った心の傷。それは一生癒えない。でもキトゥンはやっぱり真っ直ぐ突き進んでいく。と言うか、突き進むしかないんだろう。心の底に「どうなってもいい」と言う想いを抱えながらも、母親を求めて。
あと、これはIRAと深く関係のある話ではあるけれど、それはあくまで物語の一つの背景であり、これはやっぱりキトゥンの「私の人生の物語」なんだと思った。見ていると、何故か本当にキトゥンが愛おしくて仕方なくなる。孤独と悲しみを抱えていたキトゥンが、やっと大切な人を見つけて、そして居場所も見つける。
とにかくもうねー、最後のほう泣きっぱなし。ストーリーだけだと、キトゥンは捨て子だしテロはどっかんどっかん起こるし、ものすごく暗い話になりがちなんだけど、コミカルな場面も結構あって重くないです。そしてラストは不思議と爽やかで、優しさと温もりと幸福感に満ち溢れていました。これからは心の底から前向きに生きていくんだろう、と安心するラスト。キトゥンがものすごく神々しく見えてしまった。
とにかくものすごく良かった。今のところ間違いなく今年のベストです。場面はサクサク切り替わってテンポはいいし、音楽もそれぞれ場面にぴったりだし、アイルランド勢で固めた俳優陣も素敵。「Sugar Baby Love」聴くと泣けてくる。見終わった後でもじわじわと来るものがあります。感想ももっと上手く書きたいんだけど、表現できない。悔しいなあ。浜松東映で9月に上映するので、是非もう一度見ようと思います。
★★★★★ 5