baby blue

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海を飛ぶ夢

主人公ラモンは事故の為、25年間も首から下が麻痺した状態のままベッドに横たわっている。そして尊厳死を求める。とても考えさせられる作品でした。「死はいつでも僕たちの周りにいて、誰にでもいつかは訪れるもの」「死は僕たちの一部だ」と言う主人公の言葉にもあるように、人間全員にとって深く関わりのあるテーマだと思います。
九州にいた私の祖母は筋萎縮性側索硬化症ALS)と言う難病にかかりました。祖母は自分がその病気だと知った時、母に「殺してくれ」と言ったそうです。この病気の人と言えばホーキンス博士が有名だと思いますが、ああいう風に車椅子で動き、自分の意思を機材の力を借りて伝えられるのはほんの一握りの人。祖母は8年間も病院のベッドの上で過ごしました。最初のうちはお金もあったしヘルパーの方にお世話になっていましたが、月に何十万ものお金をそう何年間も払い続けられるわけがありません。病気が進行するにつれ、自分では動くことも喋ることも食べることも出来ない。でも感覚や意識は全く衰えない。寝返りも打てず、床ずれが出来て痛くても痒くてもそれを伝えられない。病院の看護婦なんて仕事でやっているだけだから、一人一人にまで気を配れないのでしょう、床ずれには膿がたまり、保温の為に置かれた湯たんぽで低音火傷、体も満足に拭いて貰えず。それがどんなに屈辱的なことだったか。何より、生きていること自体が地獄だったでしょう。私には想像も出来ません。 この作品にも「尊厳」と言う言葉が何回も出てきますが、祖母にはその「尊厳」がなかったのです。そしてラモンの言葉の中に「出口のない道を昼夜走り続ける絶望感」と言う言葉がありましたが、正にそう言う状況だったのだと思います。
1通毎に読みにくくなっていく祖母の手紙の字。私には一体何が出来たのだろうかと考えざるを得ませんでした。そしてこの作品のラモンの看護をする家族は、彼を愛するが故に「尊厳死」に賛成しています。ただし、彼の兄は大反対をします。どちらが本当に彼を愛して、彼のことを考えているかは一目瞭然です。本人が辛い状況でも「生きていて欲しい」と願うのは単なるエゴです。彼が苦しんで、心の底から死にたいと願っているならば、本人の意思を尊重するのが家族だと思います。人間としての尊厳があるうちに。確かに非常に繊細で難しい問題ではありますが、生き方を選ぶ権利があるのならば、死に方を選ぶ権利があっても良いのではないでしょうか。
ラモンが空想の中で空を飛ぶシーンがとても悲しかった。とても綺麗な映像と重いテーマの対照が印象的な作品でした。

海を飛ぶ夢 [DVD]

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